ペン画と鉛筆デッサンは、
どちらも“線で描く”技法として
比較されたりもしますが、
実は表現方法や制作プロセス、
作品の雰囲気などが
大きく異なったりします。
同じモチーフを描いても、
使う道具によって仕上がりは
まったく別の表情になるため、
「どちらから学ぶべき?」
「どんな違いがあるの?」
と迷う方も多いのでは
ないかなと思います。
そこで本記事では、
ペン画と鉛筆デッサンの違いについて
- 線の特徴
- 明暗の作り方
- 質感表現
- 向いているモチーフ
などの観点から、
初心者の方にも分かりやすく
整理して解説していきます!
どちらの技法にも魅力があり、
学ぶ順番によっては
上達のスピードも変わりますので、
自分に合う表現を見つける
ヒントとしてお役立ていただければ
幸いです。
そこでこの記事では
ペン画と鉛筆デッサンの違い
というテーマについて、
初心者の方にも分かりやすく
比較しながら解説していくので、
最後まで読み進めていただけると
幸いです。
目次
ペン画と鉛筆デッサンの根本的な違い
ペン画と鉛筆デッサンの違いを
整理してまとめてみました。
「消せる」か「消せない」か
もっとも大きな違いが、
修正が出来るかどうか
という事ですね。
鉛筆は消しゴムで
修正する事ができる反面、
ペンだと一度描いた線を
消すことは至難の業と
なってしまいます。
では、それぞれについて
みていきたいと思います。
ペン画
ペンで描いた線は
基本的に消す事が出来ません。
(100%では無いですが)
そのため、描く前に
構図・形・線の流れを
しっかりとイメージし、
“迷いのない線”を引く感覚が
求められてしまいます。
ミスをしても上から重ねる、
もしくは黒ベタにしたり
模様として取り込むなど、
工夫でリカバリーする事は
可能ではありますが、
鉛筆のように自由に消したり
調整したりはできません。
その点テクニックが
必要になってきますが、
ペンの特性を理解しつつ
身につけていく必要がある
という事ですね。
鉛筆デッサン
鉛筆デッサンの場合、
消しゴムを使う事で
形や明暗を何度も調整できます。
なので基本的には
「間違えたら直す」
という工程が前提にあるため、
初心者でも安心して
取り組める表現方法です。
とはいえ、何度も
消しゴムを使ってしまうと
紙を痛めてしまうので、
使用回数には
限度がありますが、
それでも初心者の方にとっては
やり直しがきく描き方ですね。
| 項目 | ペン画 | 鉛筆デッサン |
|---|---|---|
| 修正 | 不可・制限大 | 容易・微調整しやすい |
| 線の性質 | 均一で強い | 強弱や濃淡を付けやすい |
| 描き方 | 線で作る | 面で作ることも多い |
ペン画は一発勝負
デッサンは線を積み重ねて整える技法
と言えるでしょう。
とはいえ、
クロスハッチングの密度によって
色の濃淡で線を誤魔化す事も出来るので、
そういった意味では修正というよりも
テクニックによって
カバーする事が可能です。
明暗表現の違い
次に、明暗表現の違いについて
みていきましょう。
線の密度と濃淡のグラデーション
ペン画
ペンは筆圧によって
多少の濃淡をつけられるものの、
鉛筆と比べると
濃淡を付ける事が出来ないため、
線の密度や方向によって
明暗を作ります。
代表的な技法は以下の4つです。
ペン画は光と影がくっきりとした
コントラストの強い作品に
なりやすいことが特徴です。
ペン画の主な技法については、
こちらの記事で詳しく
解説をしています。
鉛筆デッサン
鉛筆デッサンの場合は
鉛筆の種類と筆圧によって
色の濃さを変える事が
出来るようになります。
- 筆圧で色の濃淡を操作できる
- 広い面を塗って滑らかに
グラデーションが作れる - 光の移り変わりが
自然に表現できる
鉛筆は立体感・空気感・遠近感の
表現に優れており、
“空間的な作品”を作りやすい
特徴があります。
鉛筆の使い方に関しては
以下の記事で詳しく
解説をしているので、
コチラもあわせてご覧ください。
線と質感の違い
「線で構造を示す」か「質感を滑らかに再現する」か
ペン画は線の種類によって、
作品の印象を大きく
変える事となります。
線の方向、長さ、間隔、太さが
そのまま質感の違いになります。
例えば、
といったイメージです。
一方で鉛筆の場合は、
線だけでなく『面』での明暗や、
滑らかなトーンを作ることが
できます。
そのため、
など、自然で柔らかい雰囲気を
出しやすいです。
ペンでもこれらの表現をする事は
可能ではありますが、
鉛筆の濃淡によるものの方が
柔らかさを演出しやすいと言えますね。
作品全体の雰囲気の違い
ここでは、
絵全体の印象の違いについて
解説をしていきます。
ペン画は「シャープで図案的」
ペンの場合、インクという
「黒の強さ」があるため、
くっきりとした印象の
構図になります。
線の方向やリズムが
作品の印象を決めるので、
どこかデザイン的で図案的な絵柄と
相性が良いと言えますね。
特に向いているモチーフは
- 植物の細密表現
- 建築物や街並み
- 図案的な構成
- 模様やパターン
などが挙げられますね。
それぞれのモチーフの
描き方に関しては
以下の記事で詳しく
解説をしているので、
こちらもあわせてご覧ください。
鉛筆デッサンは「柔らかく写実的」
鉛筆の場合は、
立体感・質感・空間表現など、
現実に近いトーンを
そのまま描きやすい表現です。
写実的でリアル調の絵に
適していますね。
鉛筆に向いているモチーフは
以下のものが挙げられます。
- 人物の肌
- 布の折れ目
- 暗い背景
- 静物(果物・石膏像)
ペンと鉛筆それぞれの道具には
適しているモチーフを探してみると
新たな発見があるかもしれませんね!
同じモチーフでも、
技法が変わるだけで
作品の世界観が大きく変わるのが
面白いところです。
描き心地と作業工程の違い
この章では、
ペン画と鉛筆それぞれの
描き心地の違いについて
まとめています。
ペン画の描き心地
ペン画にはどこか
瞑想的な側面があったりします。
例えば、ペン画の技法の一つである、
「ゼンタングル」
と呼ばれるペン画の技法を
ご存知でしょうか?
このゼンタングルという技法は
「禅」と「絡まる」を
組み合わせた造語で、
写経のようにペンを使って
思いつくままに模様を
描き足していくものとなります。
簡単な模様を繰り返し
描いていく事で、
初心者でも簡単に
アート作品を手がけていく事が
出来るといった技法です。
単調な作業に見えて、
線を積み重ねる楽しさは独特です。
このように、ペン画には
特徴的な描き心地というものが
合ったりします。
他にも以下のような
特徴がありますね。
- 線を引く瞬間に作品の印象が決まる
- 線への集中力が高まりやすい
- 描く“リズム”がそのまま線に出る
- 線の揺れが味になる
- 消えないからこそ緊張感が魅力
ペン画は他の技法では出せない
描写をする事ができるので、
線の重ね方によって紡ぎ出される
世界観の構築を楽しんでいただければと
思います。
鉛筆デッサンの描き心地
一方で鉛筆デッサンの場合
「面」と「線」を使った
描写となります。
加えて、ガーゼで擦って
トーンの調整を行ったり、
消しゴムでハイライトを作るといった
描写をする事が出来ます。
グラデーションの幅も広く、
モノトーンでありながらも
作品の奥深さを描いていく事が
出来る描写ですね。
鉛筆デッサンは技術の習得を
目的としている側面があるので、
「鉛筆画」とはまた少し
違う立ち位置ではあります。
ですが、絵の上達を目指す上では
デッサン力があるという事は
絵の基礎力を鍛える上で
通る道であると言えますね。
鉛筆デッサンの描き心地の特徴は
以下の通りになります。
- 形を整えながら進められる
- 広い面を塗って影を作れる
- 濃淡の範囲が広い
- 仕上がりが滑らか
- 失敗しても戻せる安心感
じっくりと観察をしながら
積み上げる技法なので、
初心者でも取り組みやすいのが
特徴ですね。
初心者はどちらから始めるべきか?
結論として言うならば、
最初は鉛筆デッサン
次にペン画の順番がおすすめです。
その理由として、
- 鉛筆で形・比率、
光と影の理解を深められる - ペン画はその基礎がないと
難易度が高い - 鉛筆デッサンで
観察力が伸びれば、
ペン画が一気に描きやすくなる
と言う理由が挙げられますね。
特にペン画は線だけで
全てを表す表現なので、
基礎があるかないかで
作品の安定感が大きく変わります。
デッサン力をつける事が
必ずしも必須という
訳ではありません。
ただ、それでもやはり
基礎力を身につけておいた方が
描きやすさという意味でも
技術の底上げになり得てきます。
デッサンに関しての記事は
コチラのページで項目ごとに
解説をしているので、
興味のある方はコチラのページも
あわせてご覧ください。
どちらも共通して身につく力
以上を踏まえた上で、
実はどちらの技法に共通して
必要な力は同じという事です。
- 形の観察力
- 比率を正しく見る力
- 光と影の理解
- 質感の分析
- 構図の取り方
この基礎力は、
デッサン、ペン画に限らず
どの技法にも応用ができる
ものでもあります。
だからこそ、
鉛筆 → ペン
この順番で学ぶことで、
技法の幅が一気に広げる事が
出来るようになりますね。
ペン画と鉛筆デッサンの歴史的な背景(表現のルーツの違い)
ここでは、ペン画と鉛筆デッサン
それぞれのルーツの違いについて
まとめさせてもらいました。
ペン画と鉛筆デッサンは、
そもそも歴史的な用途や
役割が異なっており、
この違いが技法の特性にも
大きく影響しています。
ルーツに関しては
豆知識程度に知っておく事で
技法に対して愛着が
湧くかもしれませんね。
ペン画のルーツ
ペン画のルーツは
特にヨーロッパにおいて
歴史の深い技法でもありました。
- 古くは中世ヨーロッパの写本装飾や、
植物・動物のスケッチから発達 - 緻密な観察と記録のための
「線画文化」が基盤 - 印刷技術と相性が良く、
図案・版画にも応用されてきた
線を刻むように描く
スタイルが確立した為、
図案的でデザイン的な印象が強いのは
この歴史背景も関係しています。
鉛筆デッサンのルーツ
- デッサンは「dessin(フランス語)」
=“素描・準備画”の意味 - 絵画制作の下地として発展した技法
- 光・影・立体を理解するための
観察の基本として確立
つまりデッサンは、
「絵画や作品の基礎を学ぶ場」
として美術教育の中心に置かれてきました。
歴史的にもペン画とデッサンは
目的も役割も根本から違う
ということですね。
ペン画と鉛筆デッサンで向いている人のタイプ
技法を選ぶ際に、
「自分の性格に合っているか」
という事も大きなポイントですね。
相性が良ければ馴染みやすいですが、
反面細かい作業が苦手な人にとっては
苦行に感じてしまうかもしれません。
自分としては完成したイメージに
近づいていく事で
達成感を得ていますね。
それでは、それぞれの技法に
向いている人の特徴について
みていきましょう。
ペン画が向いている人
ペン画に向いている人は
以下のような特徴が挙げられます。
- 線を引くことが好き
- 模様やパターンを作るのが好き
- コツコツ作業を積み重ねられる
- 緊張感のある作業が好き
- 図案・デザイン系に興味がある
僕自身、製図の図面を描く上で
ミリペンを使っていた事がきっかけに
ペン画を始めるに至りました。
当初は線を1本1本描いていましたが、
線を重ねてハッチングする事で
ペンが特有の描写が
出来るようになってから
その魅力に惹かれていきましたね。
ペン画という技法は、
線の美しさを楽しめる人であれば
とても相性が良いと言えます。
一方で、水彩や油絵のように、
筆のタッチで構成される
絵の方が好きな方は
そちらの方と相性が良いですね。
鉛筆デッサンが向いている人
鉛筆デッサンは個人的には
得意ではありませんでしたが、
やはり基礎力を養う上では
必須の技術であると思わされます。
特に、
- 形をじっくり観察するのが好き
- 立体や空間を正確に捉えたい
- ゆっくり積み上げて仕上げたい
- 柔らかい光が好き
- 写実描写に興味がある
といったタイプの方にとっては
相性の良い描き方でもありますね。
物を見る力
を徹底的に伸ばせるのが
鉛筆デッサンですので、
特に写実描写を目指すのであれば
デッサンの技法の習得を
オススメします。
ペン画と鉛筆デッサンを組み合わせると生まれる効果
実はこの2つを両方学ぶと、
表現の幅が一気に広がります。
個人的にはペン画を習得する上で
どちらも欠かせない技法だと
実感しています。
鉛筆デッサンを学ぶとペン画が上達する
これは誇張ではなくて、
デッサンの基礎がある事で
魅力的なペン画を描く事に
繋がっていきます。
たとえば、
- 形の狂いが少なくなる
- 明暗のつけ方に説得力が出る
- 光の方向性が正確になる
- 質感を分析できるようになる
このような要素を
理解する事が出来るようになります。
線で表現するペン画は、
基礎が強いほど安定します。
そこでまずは、
鉛筆デッサンでの
濃淡のグラデーションを使う事で
絵の全体像を把握する事から
始めていきましょう。
ペン画を学ぶとデッサンも良くなる
一方で、ペン画から入った方は
線から鉛筆のタッチ
に変化する事で、
デッサンにも良い影響を
及ぼす事となります。
- 線の強弱への意識が高まる
- “構造を理解する目”が育つ
- 描写の曖昧さが減る
- 視線誘導が上手くなる
このような理解ですね!
線への理解が深まるため、
逆にデッサンの精度も
向上してくるようになってきます。
ペンでの手軽さを実感しつつ
デッサンにも活かしていく事で
お互いの技法の向上に
繋げていく事となりますね。
ペン画とデッサンの違いに関するよくある質問(FAQ)
Q1. ペン画は下描きをしても良いですか?
A1. はい。下書きをして大丈夫です。
むしろ初心者ほど下描きは必須です。
鉛筆で薄く形を取り、
その上からペンを入れることで
安定した仕上がりになります。
Q2. 鉛筆とペン、
どちらが難しいですか?
A2. どちらも難易度の
ベクトルが違うため比較はできませんが、
初心者には修正できる
鉛筆の方がやさしいです。
Q3. ペン画の練習は
何から始めれば良いですか?
A3. ペン画の練習を始める際に、
- 小さなモチーフ
- 基本形態
- 身近にあるモチーフ
など、単純な形から始めると
上達が早いです。
Q4. デッサン経験があれば
ペン画は描きやすい?
A4. はい。
観察力と立体把握が
身についている分、
ペン画でも線の説得力が出て
一段階上の表現が可能になります。
Q5. 作品販売を目指す場合、どちらが有利?
A5. 作品の方向性によりますが、
ペン画は“個性が出やすく差別化しやすい”、
デッサンは“技術力が伝わりやすい”
という強みがあります。
まとめ
今回の記事では
ペン画と鉛筆デッサンの違いについて
まとめさせてもらいました。
ペン画と鉛筆デッサンは
一見似ているようで、
- 修正の自由度
- 線と面の扱い方
- 明暗の作り方
- 質感表現
- 作品の雰囲気
- 制作工程
など、多くの点で根本的に違います。
しかし、どちらも
「観察力」
を中心に据えて成り立つ表現です。
【鉛筆デッサン】
柔らかい光・滑らかな明暗・写実性に強い。
【ペン画】
シャープな線やコントラスト、
図案的な美しさに強い。
どちらか一方だけでも
素晴らしい作品が生まれますが、
両方の基礎を理解すると、
表現の幅は驚くほど広がるでしょう。
この記事をきっかけに、
是非とも両方の技法について
興味が湧きましたら
是非とも試してみてくださいね!
※著者:小笠原英輝
※本記事の内容は、
多摩美術大学での基礎教育および
鉛筆デッサン・ペン画制作の経験を元に、
一般的な美術基礎理論に
沿ってまとめています。
特定の画風に偏らず、
観察力・光と影・線表現に関する
基本的な知識を客観的な立場で
解説しています。






















