一般的には、鉛筆は
専用の鉛筆削り器を使って
削るのが普通だと思います。
ですが、デッサンで使う鉛筆を削る際は、
基本的にはカッターナイフを使って
削る事が主流となります。
これはデッサンを
やった事がある方にとっては
ごく当たり前な事では
あるかもしれません。
とはいえ、一般的な方にとっては
「なんで鉛筆削りではなくカッターで削るの?」
という疑問が湧いてくるのも
無理はないと思います。
そこで今回は、
デッサン用鉛筆を鉛筆削り器ではなくて、
カッターで削る理由について
多摩美術大学デザイン科出身の僕が
解説をしていきたいと思います。
目次
デッサンで鉛筆削りを使うのがダメな5つの理由

デッサンにおいて鉛筆削りを使うと、
芯の形状や描き味が制限されてしまいます。
カッターで削ることで、
面塗り・線描・トーン表現など
表現力を自在にコントロールできるようになります。
面塗り・トーン作りに不向き(理由①)
鉛筆デッサンをする上で、
面を塗ったり鉛筆で調子を付ける
といった作業が必要になります。
鉛筆デッサンはあくまでも
作品制作というよりも、
モノの捉え方や構図、
明暗のバランスなどを描く為の
画家にとってのトレーニングのような
ものでもあります。
ですので、精度よりも絵を描く上で
モチーフを的確に描く為の
手順を身につける事が
優先されるという事ですね!
鉛筆削りを使って削った鉛筆の場合ですと
鉛筆の先端が尖ってしまい、
面を塗るのに時間がかかってしまうので、
デッサンをする上では適していない
形状となってしまいます。
初めのうちはカッターナイフで
削る事に慣れないかもしれませんが、
慣れてくると鉛筆削りよりも
カッターナイフの方が
綺麗に削る事が出来るようになってくるので、
まずは練習あるのみです。
鉛筆削りとカッターで削る違いについては
こちらの記事で詳しく解説をしているので
併せてご覧になってください。
表現幅が狭くなる(理由②)
デッサンはモチーフの形や質感、
光と影を鉛筆一本で表現する
繊細な技術でもあります。
そのためには、鉛筆の芯を
使いこなす事がとても重要な要素
という事に他なりません。
ですが一方で、鉛筆削りで削った鉛筆は
芯の形が丸くなりやすく、
表現の幅が狭くなってしまいます。
特に、トーン(明暗)や
グラデーション(なだらかな濃淡)を
描く際には、
芯の面を使って滑らかに
塗る必要がありますが、
芯が短くて丸いとこの技が使えなくなります。
また、細い線やシャープな描写も
難しくなってしまいますね。
鉛筆削りでは尖った芯が作りにくく、
細かい部分の描写がぼやけやすくなります。
その結果、描いた絵にメリハリがなくなり、
全体的にぼんやりとした
印象になってしまうのです。
このように、鉛筆削りを使うと、
デッサンに必要な
「表現力」
が発揮しにくくなるため、
正直おすすめはしません。
持ち方が固定される(理由③)
デッサンでは、
鉛筆の持ち方もとても大事です。
長い芯を持つことで、
鉛筆を寝かせて持ったり、
立てて持ったりと、
いろいろな描き方ができます。
特に、寝かせて描く方法は、
広い面を一気に塗ったり、
柔らかい陰影を作るのに便利です。
ですが、鉛筆削りで短く削った鉛筆は
芯が出ている部分が少ないため、
基本的には鉛筆を立てて
持つ事となりがちです。
これだと必然的に文字を書くような
持ち方になってしまうので、
これだとデッサンに適した
持ち方ではなくなってしまいます。
持ち方が固定されてしまうと、
自ずと描ける線の種類も限られてきます。
つまり、言い換えると表現の自由が
限られてしまうと言っても他なりません。
自分の思い通りに自由に描く為にも、
芯の出方を自分で調整できる
カッターで削るのが
好まれる理由のひとつです。
デッサンをする際の
鉛筆の基本的な持ち方に関しては
以下の記事でまとめているので、
こちらもあわせてご覧になってください。
芯先が荒れやすく、折損リスクも増える(理由④)
鉛筆削りを使うと、
多くの鉛筆を削る事が出来る反面、
芯の先端の部分がやや荒削りな感じの
状態となってしまいます。
文字を書く分には
これでも良いかもしれませんが、
デッサンをする上では
紙に鉛筆の芯が引っかかってしまったりと、
場合によっては描きにくいものと
なってしまい兼ねません。
「でも、自分には芯先をカッターで削るだけの器用さは無いなぁ..」
と、人によっては
このように感じてしまう事でしょう。
確かに、カッターで先端を削るのにも
手先の器用さやスキルが
必要になってくるかもしれませんが、
その場合は粒子が細かい
サンドペーパーを使う事で
綺麗に整える事が出来るようになります。
ある程度数をこなしていければ
綺麗に削る事が出来るようになってきますが、
慣れないうちはサンドペーパーを
併用して使うと良いですね。
鉛筆の芯が損傷してしまう恐れがあるから(理由⑤)
鉛筆削りを使ってしまうと、
自分ではコントロールができない形で
鉛筆に負荷がかかってしまいます。
特に、あまり質が良く無い
鉛筆削りを使ってしまうと、
何度も芯が折れてしまう事もあるので
余計に注意が必要です。
僕も鉛筆削りで削った鉛筆の芯が
根本から折れてしまった経験は
何度もありますからね。
その結果、鉛筆を削るだけで
芯が消耗してしまうような事態に
発展しかねません。
特に、4Bや6Bといった柔らかめの鉛筆は
芯が折れやすいので注意が必要です。
カッターナイフであれば
ダイレクトに力が伝わるので、
慣れてくれば芯を綺麗に整える事も
できるようになってきます。
また、先ほども言ったように、
サンドペーパーを使って
芯先を整えるのもオススメなので、
併用して使うと良いでしょう。
正しいデッサン用鉛筆の削り方とは?
カッターで安全に削るには、
道具選びと削り方の順序が大切です。
芯の長さ・角度・仕上げの整え方を
意識することで、
プロのような描きやすい鉛筆が作れます。
必要な道具(ナイフ、カッターなど)
デッサン用に鉛筆を正しく削るためには、
専用の道具が必要です。
よく使われるのは以下の2つです。
- アートナイフ(カッター)
細くてよく切れる刃のついたナイフで、
安全性も高く初心者にもおすすめです。 - 普通のカッターナイフ
文房具としてよく使われる
一般的なカッターでも削ることが可能です。
他にも、木彫り用のナイフや
彫刻刀を使う人もいますが、
安全性とコントロールのしやすさから、
最初はアートナイフ
もしくはカッターが良いでしょう。
また、削った後に芯を整えるための
紙やすり(サンドペーパー)も
必須アイテムです。
これを使うことで、
芯の形を滑らかに整えられます。
削る際は新聞紙や
下敷きを敷いて作業すると安全で、
削りかすも処理しやすくなります。
特に学校やアトリエで作業する場合は、
周囲を汚さないよう気をつけましょう。
正しいデッサン用鉛筆の削り方(安全な手順)
芯の折れを防ぎつつ、
滑らかな描き味を得る為の削り方を
初心者にも分かりやすく紹介します。
各工程を丁寧に行うことで、
芯が安定し、表現の幅が
格段に広がります。
デッサンで使用する鉛筆を削る際には、
芯の長さや形状が表現力に大きく関わります。
芯を25〜35mmほど露出させると、
面塗りと精密な線描のどちらにも
対応できるようになります。
ここでは、安全に美しく削るための
手順を順を追って解説します。
① 準備を整える
まずは新聞紙などを敷いて、
机の上が汚れないように事前に準備します。
次に、
アートナイフまたはカッターナイフ
などを用意します。
慣れないうちは耐切創手袋を着用して
作業するのもおすすめです。
② 木部だけを少しずつ削る
鉛筆の木軸に対して
15〜20度ほどの浅い角度で刃を当て、
芯に触れないよう注意しながら
木の部分だけを削り取ります。
この際に鉛筆を回しながら少しずつ削る事で
形が均一に整います。
一気に削ろうとせず、
少しずつ薄く削り進めるのが安全です。
③ 芯を25〜35mmほど露出させる
芯の長さは、指の第一関節くらいの長さを
目安にします。
これくらいの長さがあれば、
広い面を塗る際にも、
立てて細い線を描く際にも対応可能です。
芯が出過ぎると折れやすくなるため、
バランスを見ながら慎重に整えましょう。
④ 紙やすりで芯を整える
削り終えたら、
紙やすり(#240 〜 #400)を使って
芯先を仕上げていきます。
荒めのやすりで全体を整えたあと、
細かい番手で滑らかに磨くと
芯の面が均一になり、
塗りムラを防ぐことができます。
面塗り用には楕円形、
線描用にはやや尖らせる形に
整えると良いでしょう。
⑤ 芯の粉を拭き取り、仕上げる
鉛筆を削り終えたら、
ティッシュや柔らかい布で
芯の表面を軽く拭き取り、
粉や木くずを取り除きます。
これにより、紙面への
引っかかりやムラを防げます。
芯が安定し、描き味も格段に向上します。
⑥ 芯先を鉛筆ホルダーで保護する

研ぎ終えた鉛筆は、
個人的には鉛筆ホルダー内に
逆さまにして入れています。
そうする事で、先端を保護されるので
安心ですね。
特に外出時や持ち運びの際に
芯が折れるのを防げますし、
筆箱の中を汚さずに済むので
おすすめです。
🔍 仕上げのポイント
この手順を身につけておくと、
芯が滑らかで描きやすくなり、
陰影や質感の表現力が大きく向上します。
慣れるまでは少し時間がかかりますが、
デッサン上達への第一歩として、
焦らず丁寧に削る習慣をつけていきましょう!
鉛筆削りがダメな場合でも「使い方次第でOK」なケースもある?
デッサン以外の場面では、
鉛筆削りを使っても問題ありません。
スケッチや外出先など、
目的に合わせた使い分けで
効率よく制作できます。
スケッチやラフ画なら特に問題ない
デッサンでは「鉛筆削りNG」
というイメージがありますが、
実はすべての場面で使ってはいけない
というわけではありません。
たとえば、アイデアスケッチや
ラフ画(下描き)など、
正確さよりスピードや
発想が大切な場面では、
鉛筆削りを使っても別に
問題ではありません。
こういった用途では
鉛筆の芯が長くなくても十分描けますし、
道具の準備に時間をかけるより、
サッと描き出すことの方が重要です。
鉛筆削りを使えば
数秒で芯を整えられるので、
アイデアを逃さず素早く描くのにも
向いています。
また、外出先などでナイフを使えない場面
(カフェや公園など)では、
携帯用の鉛筆削りが便利です。
もちろんデッサン本番では
ナイフ削りをおすすめしますが、
用途に応じて使い分けることが大切です。
僕自身、外出先では鉛筆よりも
手軽なペンを使って描く事が多いですが、
そこは各々の好みで構いません。
スケッチに適しているペンに関しては
以下の記事でまとめているので、
こちらも参考にしてみてください。
デッサン初心者の練習段階では?
美術を始めたばかりの初心者にとって、
カッター等で鉛筆を削るのは
少し怖いと感じるかもしれません。
実際、最初は芯を折ってしまったり、
手を切りそうになったり
する事もありますからね。
普段から刃物を扱う経験が少ない方は
特に要注意です。
なので、そんな時は
まず鉛筆削りで削って描く練習から
始めてもOKです。
大切なのは描く楽しさを知ること。
いきなり道具にこだわりすぎると、
ハードルが高く感じてしまいますからね。
特に初心者のうちは、鉛筆削りで描きながら
「もっと細かく描きたい」
「トーンを滑らかにしたい」
と感じるようになる事が大事になります。
そうした気づきが出てきたら、
ナイフ削りに挑戦するタイミングでもあります。
最初から完璧を目指すより、
段階を踏んでステップアップするのが
上達への近道です。
鉛筆削り+紙やすりの併用
鉛筆削りを使って芯を出したあとに、
紙やすりで芯の先を整える
という方法もあります。
これなら削る手間を省きつつ、
ある程度の形を自分好みに調整できます。
やり方はとても簡単で、
鉛筆削りで削った芯の先を
紙やすりに軽くこすりつけるだけ。
これだけで、尖らせたり、
平らにしたりできます。
特に100番〜400番のやすりを使うと、
芯がなめらかになり、
描き心地も良くなります。
この方法なら、ナイフに不慣れな人でも
安全に芯を調整できるので、
初心者や子どもにもおすすめです。
完全なナイフ削りには及びませんが、
「とりあえず描きたい」
という方には十分効果が
あると言えますね。
芯ホルダーやシャープペンとの併用
他にも
- 芯ホルダー
- シャープペンシル
などを使ってデッサンをする人もいます。
これらは芯が交換できるため、
削る手間がなく、安定した線を
引くことができます。
特に芯ホルダーは
長い芯を出す事ができるので、
専用の芯研器(シャープナー)を使えば、
いつでも好みの芯の形に整えられます。
描いている途中で
芯が短くなる心配も少なく、
非常に実用的です。
芯ホルダーを使う際は、
替え芯と芯研器をセットで
購入する事が必須となりますが、
その使い勝手から個人的にも
かなり愛用しています。
制作時にも下絵を描く際に
細かな描写をする事も出来るので、
かなりおすすめです。
また、0.5mmや0.3mmのシャープペンは、
細かい部分の描写に向いており、
鉛筆と併用することで
より豊かな表現が可能になります。
鉛筆削りに頼らずに済む
便利な選択肢として
覚えておくと良いでしょう。
携帯性や時間短縮を優先する場合
ナイフを使って削るのは
時間も手間もかかります。
特に外出時や時間が限られている場合には
携帯性やスピードを重視して鉛筆削りを使う
という事も一つの選択肢です。
プロの画家さんでも
外出先では鉛筆削りを
活用している人がいるくらいです。
ポイントは、削ったあとに
必ず紙やすりで芯を整える事です。
これだけで描きやすさが
大きく変わるので、
試してみてください。
また、削る時間がないときは、
あらかじめ削った鉛筆を
何本か用意しておくという方法もあります。
こうすれば外出先でも
落ち着いてスケッチする事ができるので、
前もって準備しておくのも良いですね。
自分の描く環境に合わせて、
効率的に道具を使い分けるようにしましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1:デッサン初心者でもカッターで鉛筆を削れますか?
A1:最初は少し難しく
感じるかもしれませんが、
練習すれば誰でも
できるようになります。
Q2:鉛筆削りを使うと何がダメなんですか?
A2:鉛筆削りでは芯が短く
丸く削られるため、
デッサンで重要な面塗りや
滑らかなグラデーションが
描きにくくなります。
Q3:ナイフ削りで芯が折れてしまう場合はどうすればいい?
A3:刃を鉛筆に対して浅く当て、
少しずつ削るようにしましょう。
芯が柔らかい4B〜6Bは
特に折れやすいため、
刃を軽く動かすのがポイントです。
芯先はサンドペーパー(100〜400)で
仕上げると折れにくくなります。
Q4:鉛筆削りを使っても良いケースはありますか?
A4:スケッチやラフ画など、
スピード重視の場面では
鉛筆削りを使っても問題ありません。
Q5:芯ホルダーやシャープペンでもデッサンできますか?
A5:はい、可能です。
芯ホルダーは長い芯を保持できるため、
デッサン向きです。
デッサン用鉛筆を鉛筆削りで削る事がダメな理由まとめ
今回は、デッサン用鉛筆を削る上で、
鉛筆削りを使ってはダメだと言われる
理由についてまとめさせてもらいました。
鉛筆削りでは表現力が制限されやすいため、
デッサンにはカッター削りが基本です。
削り方をマスターすることで、
描き味と作品の完成度が大きく変わってきます。
鉛筆デッサンは絵を描く上で
モノの捉え方を掴むための
大切な作業となってきます。
特に道具によっては
制作スピードや仕上がりも変わってくる為、
道具の手入れや扱いには慣れておきましょう。
それでは今回はこの辺で失礼します。
※この記事は、美術大学でデザイン科を専攻し、長年にわたりデッサン指導および作品制作を行ってきた画家・小笠原英輝によって執筆されています。
多摩美術大学を卒業後、数多くのデッサン講座・絵画講習に携わり、初心者から専門家まで幅広い層へ指導経験を積んできました。
記事内の内容は、美大教育で実際に用いられているデッサン技法および筆者自身の制作実践に基づいたものであり、正確性・再現性の高い情報提供を心がけています。
現在は当ホームページにて、デッサンやアートに関する解説記事を通じて、美術表現の基礎と創作の楽しさを発信しています。




















芯が折れやすいため、
刃は軽く当てましょう。
紙やすりで形を整えると安定します。
面塗りがしやすくなり、
表現の幅も広がります。