カブトムシのような甲虫は、
複雑な形状と光沢のある
質感を持っており、
描きごたえのあるモチーフです。
線を積み重ねる事で
立体が浮かび上がっていく感覚は、
ペン画ならではの魅力でもあります。
そこでこの記事では、
実際の制作過程の写真を交えながら、
カブトムシの描き方を段階ごとに
紹介していきます。
描く際の観察ポイントや
ストロークの工夫など、
細密画に必要なノウハウも
丁寧にまとめました。
どうぞ最後までゆっくりご覧ください。
目次
カブトムシを描く前に知っておきたいポイント
カブトムシという昆虫は、
シンプルなようで
実は細部が非常に多い生き物です。
表面的なフォルムの
かっこよさだけでなく
パーツごとの形や脚の関節など、
注意深く観察する事で
新たな発見もあります。
特に描き込みを行う際は、
“全体の印象” と “ディテール”
この両方を意識する事が
とても重要になります。
フォルムを捉えるための観察ポイント
カブトムシを描く前に、
まずは形の理解を深めます。
特に重要なのは、
大きな面がどこで折れ、
どこで光を受けるかを
把握する事です。
甲虫は光の反射が強いため、
形の理解がそのまま完成度に
直結します。
なので、ハイライトの白を残しつつ
コントラストを強めながら
各パーツの描き込みを
心がけていきましょう。
資料選びとアングル決め
資料を選ぶ際は、できれば
- 正面
- 側面
- 斜め
この3種類を揃えておくと
観察が安定します。
アングルを早い段階で固定する事で、
影の位置や光沢の方向がぶれずに
統一感のある絵になります。
カブトムシのペン画:制作過程①|ラフスケッチ
まずは軽く全体のアタリをとります。
この段階では「細部を描かない」
という事が大切です。
※補足
今回は細密描写となる為
この段階で必要な線だけで
描き込みをしていますが、
必ずしも、ここまで丁寧な線に
仕上げる必要はありません。

まずは全体のアタリをとる
角 → 胸部 → 翅(背中)→ 脚
この順に大まかに配置していきます。
理由はシンプルで、
特徴の強い部分から形を安定させる為
となります。
角や胸部の位置がずれると、
後半の描き込みがすべて
狂ってきてしまうので、
最初は大胆に形を決めていきましょう。
プロポーションのチェック
アタリが取れたら、
次は比率の確認作業を
行なっていきます。
- 角は胸部より長いか短いか
- 背中の厚みはどれくらいか
- 翅のカーブは左右で揃っているか
- 脚の“節”の位置がずれていないか
この段階で比率を整えておく事で、
仕上げの密度が上がっても
破綻する事は無くなります。
正確な形を取る為にも、
プロポーション(比率)を
意識するようにしましょう。
カブトムシのペン画:制作過程②|中間トーンを置いていく
ハイライト(光が一番当たっている箇所)
を意識しつつ、暗い箇所を
線で描写していきます。
ペン画はやり直しがきかないので、
徐々に描いていくといったイメージで
描いていきます。



ここでは徐々に陰影を入れていきます。
光の方向を絶対に変えません。
これはデッサンの基本でもある
考え方でもあるので、
光源は必ず1箇所に
設定しておきましょう。
デッサンの陰影に関しては
以下の記事で解説をしているので
こちらもあわせて
ご覧になってください。
光の方向に合わせた影の置き方
光源がどこにあるかを決めたら、
次はその方向に沿って影の形を
置いていきます。
甲虫は滑らかな面と
急な面が連続しているため、
影の段階がはっきりしているのが
特徴です。
- 胸部の丸い影
- 角の付け根の濃い影
- 翅の下側に落ちる影
最初に“影の形”を決めておく事で、
後の描き込みが格段に楽になります。
質感を整理しながら描く
甲虫には主に2種類の質感があります。
光沢は“白を残す”意識が
非常に重要です。
描きすぎると光沢が死んでしまう為、
明るい部分には線を入れない
勇気が必要です。
カブトムシのペン画:制作過程③|描き込み・質感の仕上げ
ここからが細密描写の本番です。
ペン画の強みである
線の密度と方向のコントロール
が一気に生きてくる段階ですね!


カブトムシを含む昆虫全般は
『外骨格』と呼ばれる
体の外側が硬い殻で覆われています。
特に甲虫(カブトムシ・クワガタ)は
外骨格が特に発達している種類ですね。
この外骨格は、
体を守る“鎧”のような役割を
果たしています。
カブトムシと外骨格の簡単な説明
カブトムシの場合、
- 胸部(前胸・中胸)
- 背中の硬い翅(上翅:じょうし)
- 腹部
- 角
- 脚の節(ふし)
などが外骨格で構成されています。
外骨格は、筋肉を内部に固定する
骨の役割も兼ねており、
昆虫の動きを支える
重要な構造でもあります。
カブトムシのツヤのある黒い質感や、
独特の硬さ・面の折れ方は
すべてこの外骨格の形によって
生まれています。
細密描写のストローク
ペンは、同じ向きで
線を重ね続けると
“のっぺり”してしまいます。
そこで、面に合わせて
ストロークの方向を
少しずつ変えていきましょう。
- 胸部の丸み
→ 曲線に沿わせて描く - 背中の光沢
→ 面の流れに合わせて細かい直線 - 影の最深部
→ 密度を上げ、黒をしっかり締める
線の方向をコントロールするだけで、
立体感が劇的に変わります。
なるべくハッチングは多用せず、
外骨格の表面に合わせて
滑らかな曲線を意識した
線の描き方をしていきましょう。
光沢を一番美しく見せる方法
光沢部分は黒い線を描くよりも、
“描かない部分”を決めること
が最も大切です。
光沢を意識するポイントとして、
- 白を残す
- 白と黒の境界をあえて滑らかにしない
- 反射光を少しだけ入れる
この3つを守る事で、
自然な光沢が生まれてくれます。
ペン画の場合
紙の白も生かして描く為、
最も神経を注ぐ場面でもありますね。
カブトムシのペン画:制作過程④|最終調整と仕上げ
最終調整として、
残りの埋まっていない箇所を埋めつつ
全体の明暗バランスを
整えていきます。

最終仕上げでは
「描き込み」というよりも
「調整」を意識した
描写を心がけていきます。
全体のコントラストを整える
仕上げでは
黒をどこまで入れるか
がポイントです。
- 脚の影を締める
- 角の付け根を濃くして立体感を出す
- 翅の影を深めて重さを出す
これらを行う事で
全体がギュッと引き締まり、
カブトムシらしい存在感が
際立っていきます。
微調整で完成度を上げる
最後に細部を整えます。
- 触角の小さな影
- 関節の輪郭の整理
- 白く残した部分の周囲を
やや濃くして光を際立たせる
ここまで来ると、
カブトムシの生命感が
一気に増してくれます。

参考資料を見つつ、
納得のいく描写となれば完成です。
お疲れ様でした。
カブトムシのペン画を描く際のよくある質問(FAQ)
Q1:カブトムシを描くときに最初に意識するポイントは何ですか?
カブトムシは特徴の強い角や
胸部から形が決まっていく為、
最初にアタリの位置を
固定しておくことが重要です。
特に角と胸部がズレると
全体のバランスが崩れるため、
ラフ段階でしっかり整えます。
Q2:光沢のある質感はどのように表現すれば良いですか?
光沢は
「描き込む部分」と「白く残す部分」
これらを明確に分ける事で成立します。
ハイライト部分は線を入れず、
境界を少し曖昧にする事で
自然なツヤが生まれます。
Q3:ペンのストローク方向はどのように決めますか?
面の形に合わせて
ストローク方向を変えます。
胸部の丸みには曲線、
翅の面には流れるような直線など、
面の流れに従う事で立体感が強まり、
密度も美しく整います。
Q4:影は作品のどのタイミングで入れるのが良いですか?
アタリをとった後の
中間トーンの段階で
「影の形」を先に置きます。
光源を固定し、
最も暗い部分を早めに設定する事で、
全体の明暗が安定します。
Q5:描き込みが重く見えてしまう場合の改善方法はありますか?
濃い部分を限定し、
薄い部分を意識的に残す事で
メリハリが出ます。
特に深い影・関節・溝などを
重点的に締めると、
密度のバランスが整い、
清潔感のある仕上がりになります。
カブトムシを美しく描くためのまとめ
カブトムシのような甲虫は、
光沢と立体がとても魅力的な
モチーフです。
描く時は、
- 光源をひとつに固定する
- 白を残して光沢を表現する
- 線の方向を“面に合わせて”変える
- 影の形を最初に決める
この4つを意識すると、
作品の完成度が大きく変わります。
じっくり時間をかけて
線を積み重ねていく事で、
まるで本物のような
質感が生まれてくれます。
ペン画ならではの
楽しさを味わいながら、
ぜひとも挑戦してみてください。
カブトムシが好きな方や、
ペン画で細密表現に挑戦したい方は、
ぜひ参考にしてみてくださいね!
※筆者:小笠原英輝
※本記事の解説は、
アーティスト・小笠原英輝によって
制作・監修されています。
美術大学での専門的な学習と、
細密画を中心とした
作品制作・展示経験に基づき、
描写のプロセスや観察方法を
客観的に整理してまとめています。
実際の制作過程の写真を用いながら、
初学者でも理解しやすいように、
手順を分かりやすく構成しています。

















有機的な曲線で構成されている
柔らかくカーブする
直線ではなく“段階的な曲線”