色を見る際の
「明るい」「暗い」
という感覚において、
その明るさを科学的に示したものが
「明度」
となります。
明度は、日本産業規格（JIS）や
国際照明委員会（CIE）でも
正式に定義されており、
色を理解する為の
基本要素の一つとして
扱われています。
特に絵画、デザイン、
写真、Web制作などの
あらゆる分野においての明度は、
作品全体の印象を
左右する事となります。
立体感や雰囲気づくりから
可読性の向上など、
多くの表現に直接関わる事になる為、
正しく理解しておくことが大切です。
そこでコチラの記事では、
JIS・CIEの一次情報に基づく
正確な明度の意味と、
芸術・デザインへの
実践的な活かし方について
分かりやすく解説していきます！
目次
明度とは？（もっとも基本的な定義）
ここからは、明度の正式な定義と
科学的な仕組みについてを、
順序立てて詳しく説明していきます。
明度とは、
色がどれだけ明るく見えるかを表す
色彩学の基本的な属性
となります。
色を理解する上で重要な三属性となる
- 色相
- 明度
- 彩度
残りの三属性については
コチラの記事で詳しく
解説をしているので、
あわせてご覧になって下さい。
これらの中の一つで、
「白に近いほど明度は高くなり、
黒に近いほど低くなる」
といった表現をします。
日本産業規格であるJIS Z 8102では、
明度は
「物体色または光の明るさの知覚量」
と定義されています。
また国際照明委員会（CIE）の
CIE L*a*b*表色系では、
明度はL*値として0〜100の数値で
示されます。
【CIE L*a*b* の L*（エルスター）とは？】
L* は「色がどれくらい明るいか」
を表す数値で、
0 が真っ黒、100 が白に近い
という決まりになっています。
色の明るさを人が感じる明るさに近い形で
計算できるように作られた指標です。
世界中のデザイン、印刷、
工業で使われる「明るさのものさし」
となります。
加えて、明度は視覚印象を決定づける
最も重要な要素のひとつです。
特にアートの分野では
明度によって立体感や空気感を生み、
写真では作品の雰囲気を作り、
Webデザインでは読みやすさや
使いやすさに直結します。
色を扱う際には、
まずこの「色の明るさ」を
正しく理解する事が
表現やデザインの質を高める
土台となってきます。
明度の基本となる概念
色相・彩度との違い
色相が「色味そのもの」を表し、
彩度が「鮮やかさ」を示すのに対し、
明度は「明るさ」に特化した属性です。
三属性はそれぞれ独立しており、
明るいけれど鮮やかではない色
（パステルカラー）も、
暗いのに彩度が高い色（濃紺）も
存在しています。
その為、明度だけが色の印象を
決めるというわけではありません。
ですが、視覚心理では
三属性の中でも明度が特に強く
印象に影響します。
明度が決まる3つの科学的メカニズム
明度がどのように決まるのかは、
光学・物理・生理学の観点から
説明できます。
ここではその明度が決まる
科学的なメカニズムについて
解説をしていきたいと思います。
物体の反射率と光量
物体がどれほど光を
反射するかによって
明度は大きく変わります。
光を多く反射する物体は明るく見え、
逆に反射が少ないものは暗く見える
という事になります。
JIS Z 8722では物体色の
測定方法が規定されており、
反射率の違いが数値として
管理されます。
これにより、物体ごとの明度の違いが
より分かりやすくなる
という事でもあります。
色相固有の明るさ
CIEの相対輝度曲線によれば、
人間の視覚は色相ごとに
異なる明るさを感じ取ります。
黄色はもっとも明るく見え、
青や青紫はもっとも暗く見えます。
これは光の波長ごとのエネルギー分布が
異なるためです。
光源と観察環境
同じ色であっても、
観察する環境によっては
明度の見え方が変わります。
太陽光の下では自然に見える色も、
暖色照明では黄色が強調され、
白がやや暗く感じられる事も
あります。
これは人間の視覚が持つ「順応」
という性質によって、
明度の知覚は常に
周囲の光環境に影響される
という事でもありますね。
明度と視覚生理─明るさを感じるしくみ
明度の知覚は、
網膜にある錐体（すいたい）細胞と
桿体（かんたい）細胞の
働きによって生じます。
錐体細胞は色を担当し、
桿体細胞は明暗を担当します。
これらが脳内で統合されて
明るさが生み出されるようになります。
さらに背景色との対比、
照明の強さ、視野内の
白黒の分布などが影響し、
見かけの明度は常に変化しています。
このような対比の特性を制作に活かす事で
作品の印象がガラッと変わるのも、
一つのテクニックとして
覚えておくと良いですね。
明度が与える心理的影響
色彩心理学の分野では、
明度は人間の感情や
印象形成に強く関与する事が
知られています。
明度の高い色は清潔感や
軽やかさがイメージされ、
柔らかさ、透明感を連想させて
医療・美容・子ども向けの
デザインとして多用されます。
一方で明度の低い色は重厚感、静寂、
高級感、落ち着きなどを表現し、
映画ポスターや高価格帯商品、
ラグジュアリーブランドのビジュアルで
よく用いられます。
視線が明るい部分へ
自然と引き寄せられる事は
心理学的にも確かめられており、
視覚デザインでは主役を低明度の背景より
高明度に配置する事で
視線誘導が生まれます。
アート・絵画における明度の役割
絵画やデッサンでは、
明度は形の理解に欠かせない
最も重要な要素の1つです。
物体の立体感は明度差
（コントラスト）によって生まれ、
光源に近い部分は高明度、
影の部分は低明度、
反射光や中間調がその間を繋ぎます。
この関係が適切であるほど、
作品は自然で説得力のある
立体を持つという事になります。
空気遠近法における明度の働き
空気遠近法とは、遠くの物ほど
「色が青っぽく」
「輪郭がぼやけて」
「明るく」
見えるという自然のしくみを使った
描き方です。
遠くの物体ほど
大気の影響によって明度が高く、
コントラストが低く見えます。
この原理を取り入れる事で、
特に風景画において
自然な奥行きが生まれやすくなります。
かつてルネサンス時代の
三代巨匠と呼ばれた内の一人となる
レオナルド・ダ・ヴィンチは、
この仕組みを科学的に観察し、
絵に取り入れた最初期の
画家の一人でした。
代表作『モナ・リザ』の背景にも
この技法が使われていて、
深い奥行きと自然な雰囲気を
生み出しています。
他にも、ダ・ヴィンチの人物像、
作品や発明品の数々や偉業については
コチラの記事で詳しく
まとめているので、
興味がありましたら
あわせてご覧になって下さい。
世界観（トーン）の統一
作品全体の明度を
一定の範囲に揃える事で、
統一された世界観が成立します。
明度が高ければ幻想的的で
柔らかい印象になり、
低ければ重厚で沈静な
作品になります。
世界観を統一させる事は、
鑑賞者を作品世界に取り込む上で
重要なテクニックのうちの一つです。
写真・映像・デザインにおける明度の重要性
写真では明度が作品のムードを
決定づける事となります。
ハイキー（高明度）は
柔らかく優しい印象を生み、
ローキー（低明度）は重厚感と
映画的な緊張感を強めます。
映像作品では、
明度は物語のテーマを象徴づける
表現手法としても使われ、
シーンの感情や雰囲気を
視覚的に伝える役割を担っています。
Webデザインと可読性
国際標準のWCAG 2.1では、
背景とテキストのコントラスト比が
4.5:1以上である事が
推奨されています。
明度差が不足すると
文字が読みづらくなり、
使いにくくなるだけでなく
SEOにも悪影響が生じます。
明度調整に失敗すると、
文字が読みづらいだけでなく
最終的な収益性が落ちる
といった事態に発展し兼ねません。
なのでここはWEBメディア運営者
およびWEBデザイナーの手腕が
試される場面でもありますね。
明度を表現に活かすための実践ポイント
明度を使いこなす事で、
作品の魅力を大きく
引き上げることができます。
主役となるモチーフを
高明度で描く事で
視線が自然と集まり、
影の明度を一段深くするだけでも
立体感が増します。
加えて背景とモチーフの明度差を
適切に調整する事で、
画面全体のバランスがより安定し、
世界観がより明確に
伝わるようになります。
このような明度の対比というのは、
絵作りをする上で重要な
テクニックのうちの
一つでもあるので、
経験を通しながら習得していくのが
望ましいと言えますね。
明度に関するよくある質問（FAQ）
Q1：明度とは具体的に何を指すのでしょうか？
明度とは、色がどれだけ
明るく見えるかを示す
視覚的な指標です。
日本産業規格（JIS Z 8102）では
「物体色や光の明るさの程度」
と定義され、
国際照明委員会（CIE）が定める
CIE L*a*b*表色系では、
L*値（0〜100）が明度を示します。
白に近いほど明度が高く、
黒に近いほど低くなります。
Q2：明度と彩度の違いは何ですか？
明度は明るさ、
彩度は鮮やかさを示す
まったく別の属性です。
たとえばパステルカラーは
高明度でも彩度が低く、
濃紺のように暗くても
彩度が高い色もあります。
色相・明度・彩度は
独立した指標として
理解する必要があります。
Q3：黄色がもっとも明るく見えるのはなぜですか？
CIEの相対輝度曲線によると、
黄色は可視光の中で
もっとも高い輝度（反射率）を持つ為、
視覚的に明るく感じられます。
逆に青や青紫は相対輝度が低い為、
暗く見えます。
Q4：明度は光源によって変わって見えますか？
はい。
光源によって明度の見え方は
大きく変わります。
太陽光では自然な
明度で見えますが、
暖色照明では黄色みが強まり
白が暗く見える事もあります。
これは人間の「色順応」
と呼ばれる視覚特性によるもので、
照明環境は色の見え方に
強い影響を与えます。
Q5：絵画やデッサンで明度が重要なのはなぜですか？
明度は立体感をつくる為の
最も重要な情報だからです。
光が当たる部分は高明度、
影の部分は低明度となる為、
この差が物体の形態や
質感を決定します。
明度の階調を
正しく整理できると、
作品全体の説得力が
大きく向上します。
Q6：明度を数値で測定することはできますか？
可能です。
もっとも正確な方法は、
分光測色計を使用して
CIE L*a*b*のL*値を取得する方法です。
工業製品、印刷物、
塗装などの分野では
この数値が基準として
用いられています。
Q7：Webデザインでは明度はどのように関係しますか？
Webデザインでは、
明度差が可読性に直結します。
WCAG 2.1の国際基準では、
背景色と文字色の
コントラスト比が
4.5:1以上である事が
推奨されてます。
その為、明度差が不足すると
読みにくくなるだけでなく、
使いにくくなるという面でも
評価が下がります。
まとめ
明度とは、色の三属性の中で
もっとも視覚印象に影響を与える
重要な概念です。
JISとCIEで正式に定義された
科学的な指標であり、
アート、デザイン、写真、映像、
印刷、工業製品など幅広い領域で
活用されています。
明度の理解が深まる程、
作品の品質やデザインの説得力は
大きく向上します。
今回の記事の内容を元に、
あなたの創作活動などに
活かしてもらえたら幸いです。
※筆者：小笠原英輝
※本記事の内容は、
日本産業規格（JIS）および
国際照明委員会（CIE）の
一次情報を基に、
色彩学の正確な定義に沿って
まとめています。
筆者は美術大学・大学院で
空間表現と美術理論を専攻し、
作品制作の中で光・色・明度の扱いを
長年研究してきました。
その経験を元に、
明度の概念を分かりやすく、
信頼できる形で解説しています。
